こんにちは
理学療法士の松井洸です。
太ももを高く上げると速く走れる!強く蹴り出せば速く走れる!
これはよくある指導ですが、実は速く走るには逆効果で無駄な動きになることがあります。
どういうことか一緒に見ていきましょう。
<速く走る時の誤解>
速く走るには当然ですが、前へ足を出さなくてはいけません。
太ももを高く上げると前ではなく、上へ足が上がるので、前へ進むことにはあまり貢献しません。
高く上げる分タイムロスになり、むしろ遅くなってしまう可能性があります。
強く蹴り出すと、ふくらはぎの腓腹筋(ひふくきん)、前ももの大腿四頭筋(だいたいしとうきん)が働きます。
これによって、足首は下へ、膝は伸びる方向へ動きます。

一見前へ進むには良い気がしますが、大腿四頭筋は膝を伸ばすだけでなく、骨盤を前へ倒す作用があります。
骨盤が前へ倒れると、その上の体幹も前へ倒れて腰が引けたような姿勢になってしまいます。
前へ進むには腰は引かず、前へ出さなくてはいけません。
なので、強く蹴り出すことも速く走ることにはつながりにくいのです。
<速く走るには脇を使う>
速く走るには脇の前鋸筋(ぜんきょきん)という筋肉がポイントです。
前鋸筋は肩甲骨の内側からあばら骨にかけて伸びている筋肉で、肩甲骨を外側に動かす作用があります。
肩甲骨が外側へ動くと、背骨は反対側へひねられます。
そして、腕と足は対角線で動くため、同じ側の股関節は伸ばされます。
前鋸筋が上手く働かない場合、三角筋(さんかくきん)、僧帽筋(そうぼうきん)といった筋肉で肩をすくめるような動きとなり、背骨のひねりから股関節の伸展が起こりにくくなります。
前鋸筋が使えている場合に何が起こるかと言うと、背骨から股関節の前側に伸びている大腰筋(だいようきん)という筋肉が伸ばされます。
大腰筋は股関節を曲げる、背骨を同じ側へひねる作用があります。
前鋸筋が働くと、大腰筋の作用とは反対の動きになるので、大腰筋が最も伸ばされる姿勢になります。
筋肉の特性の1つに、伸ばされると元に戻ろうとする強力な力が働きます。
大腰筋も前鋸筋の働きによって伸ばされることで、強く元に戻ろうとする力が働き、その結果素早く足を前へ振りだすことができます。
大腰筋は股関節のインナーマッスルでもあり、股関節の安定性に関わります。
つまり、大腰筋が働くことで股関節が安定しつつ、足を振りだすことができるのです。
<体幹のインナーマッスル>
前鋸筋は体幹のインナーマッスルとのつながりもあります。
前鋸筋
↓
外腹斜筋(がいふくしゃきん)
↓
内腹斜筋(ないふくしゃきん)
↓
腹横筋(ふくおうきん)
↓
大腰筋

このように、大腰筋をはじめとする体幹のインナーマッスルとのつながりもあります。
このつながりのおかげで、前鋸筋を働かせることで大腰筋も働くし、体幹のインナーマッスルも働きます。
その結果、体幹も股関節も安定した状態で股関節を前へ振りだすことができます。
股関節を動かすには、安定する土台が必要で、その土台が体幹や股関節自体の安定性なのです。
<前鋸筋を上手く使うための運動>
以下の運動前後で走りやすさを比べてみてください。
1.片手で反対側の脇を下からつかむ。
2.脇の裏側を押さえつつ、肩を前後へ回す。
3.前後それぞれ10回ずつ回す。
運動後は前鋸筋が働きやすくなり、大腰筋や腹横筋といった筋肉も働きやすい状態になります。
その結果、速く走ることができるのです。
<まとめ>
・前鋸筋を使うと速く走ることができる。
・前鋸筋を使うと、同じ側の股関節が伸びやすい。
・筋肉には伸びると強力に元に戻ろうとする力が働く。
・前鋸筋が働くと体幹のインナーマッスルも働く。
走るというとどうしても足に意識がいきがちですが、上半身の働きもとても大事です。
走る時は上半身の動きも意識してみてくださいね。
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